岩城 宮城三平編 越後 小柳傳平校 ここまで良く訪問して頂きまして、大変感謝しております。ただこの墳墓考は、旧字や崩し字も多く、残念ながら判読出来ない文字も多く有り（すいません、管理人が読めない字です）、やもうえず□で表記してあります。 越後国東蒲原郡（蒲原郡小川の荘旧会津に属す）東山村にある古墳は之れ高倉宮以仁王の御墳墓也とうふ新編会津風土記東山村古墳端村中山西五町許小倉嶺と云山上にあり二間四方程の平地にて土人石神とも御廟山とも称す此高倉宮以仁王の墓地といふは高三四尺余経り九尺許りの封土の上に栗老樹あり其側に車の形に造りなせし石塔の如きものあり其中は空霊にして付石の左右に一六輪の車輪を彫付其径り各八寸後に表石の如きものあり高一尺許り五角の淡白色の石なり此より北の嶺つづき一六間許りにも亦石の車屋形並ひ立り其後に表石をたて封土の上に樹を栽南にあるものと同し此辺五六町の間は森々たる栗林にて最幽遂なり此辺より十歩許り東に下て東西二町南北二町余の平地あり宮の住給へし第屋跡なりとて封彊（キョウ・さかい）の跡わずかに残れり此より北の方三十間計りに空隍二あり一は幅二間半一は幅四間半共に深さ二間許り土人陷井（カンセイ・おとしあな）と稱す又其側の字を大城戸と云皆これ要害の為に設けしとぞ此処より東方をさし隔て土堤の如く南北に横たはる小峰の東面の大なる塚五つ小なる塚二十余連なれり何人の塚と云ふとを傳へす按するに以仁王は後白河帝第二の皇子にて京三條高倉の御所におはしけれは三條宮とも高倉宮とも稱す治承四年四月源三位入道頼政の勧めにより父皇の叡慮を慰んために平氏を滅さんと謀り給へしに其ことならすして大和国奈良へ落玉ふとき光明山鳥居の前にて流矢に中りて薨（ミマカ）す時に年三十歳と東鑑平家物語源平盛衰記等に見えたりされと村民口碑に傳ふる所は田原又太郎忠網か計ひにて東海道より甲斐信濃の山路を経て上野国沼田の里に道をとり陸奥国会津郡に来り遂に此所に匿居て天年を終り玉ふ車屋形の塚は其墓なりと云一は宮の子若くは其簾中なとの墓にやいづれを宮の墓との傳へす薨去の年は傳ひねとも四月三日なりとて今尊崇すること大方ならす平家物語源平盛衰記等にも高倉宮は人の参りよるふとなかりけれは見知まいらせたる者なし或女房に見せて一定の御首なることを知しと見ゆ愚管抄には其学文の師宗成をして見せて疑をはらせしなとも見えたれは其世にも生死さたかならす疑ひありと見ゆ又玉海に治承四年九月二十三日の記に傳聞高倉宮及頼政入道朔日頃駿河国を経て奥の方に向ふよし土人は告礼あり同十月八日の記に傳聞高倉宮必定現在なり去る七月伊豆国に着当時甲斐国にあり仲綱以下相具して?候すと土人告礼ありと記さる玉海は月輪兼實卿は関白忠通公の第三子にして二條帝の御字内大臣に任せらる大日本史に博通典故朝庭毎有疑議数咨詢焉とあり引続き後鳥羽帝に歴仕し尋て関白となる土人の告礼記載せらるるをみれは是生死定かならさる一証なり 東山村の旧記会陽小川風土記及諸所の古跡村民口碑に傳ふる所を左に掲けぬ 一、東山村地誌書上の旧記に治承四年高倉宮宇治の難を避此地に隠?して京都東山歌中山清閑寺の僧を微下し一寺を草創して清水寺と号す廃寺となり字に寺屋敷の名存す京を景慕の余り本村面倉を東山と改称一御住居の地を中山と号すと云又中山の石神は尊き□な高倉宮の御霊神也頼政仲綱の謀略にて宮の似首面の皮を剥御垂直を賜はりて包む然るに奉害人無き故に流矢に中りたまうと沙汰可有とて能に拵ひ平家に渡し各首実験に入ると云々 一、常波村明王院先祖は宮に随従小倉峯御墳に対する字丸山と云谷間の一人居住し御墳を守護せりとそ其後移転し来れり火災に罹り旧記焼失年代不詳今に丸山の地に礎石存し養水に用いし冷水あり 一、高倉以仁王は宇治の軍敗れし際田原又太郎忠網か計ひとも亦頼政か謀略とも云あらぬ人のしるしを平家へ示して陸奥より越後国にこころざし玉へて御供には伊豆守仲綱乙部右衛門尉重頼渡邊唱、猪隼太、清銀太貞永、同次郎、同三郎其他六位士、十三人外西方院寂了信楽の山を越へ宮を奉し東海道より甲斐信濃の山路を横きり上野国沼田の里に道を取檜枝岐の間道をこえ会津郡に入り玉ふ 上野国高崎町なる土屋老平、世良田村八坂神社祠官阿久津盛為の説とこらは住古日本武尊碓氷嶺を越玉ふとあるは吾妻郡四阿屋山としられたり今鳥居崎といふ日本武尊を祭りて鳥居あれは名とせしなり高倉宮も同嶺にかかり玉へしなりとの筆記あり 同国同郡土出村萩原栄松先祖宮御休に相成賜はりしとて矢二本持傳へてあり 同国同郡戸倉村萩原権六先祖宮を致奉りし故を以て弓を賜はりしを屋の棟に釣り置きしに類焼に罹鳥有となり又御恩を忘れさる為めに一弓を屋号とす又権六の説ところによれは戸倉村より尾瀬峠に至る間に奇岩双立松樹ありて景色頗る好し御照覧ありしよりは今に高倉岩と唱ふ一に御前倉ともいふとぞ 栗原孫之丞著述先進玉石雑誌に高倉宮系図上野藤原村民家蔵と云ありて貞任宗任の謀反の余類窃に遁れ来りて深山の僻地に世を忍ひたる系図の中に黒丸高倉宮舎人宮御前高倉宮妾と記載せり又桧枝股二郎尾瀬三郎杯とあり貞応年中桧枝股尾瀬両郷を領すとあり 紙墨色三百年前物と記してあり 治承四年五月闇本院第二の王子高倉宮以仁王宇治合戦に打負玉ひ源三位入道以下を御供にて□に信楽の山越て近江源氏を語らはせられ美濃は元より入道と同し属の頼光流此所に三日彼所に五日日数つもりて信濃路や吾妻の山の嶺つつき沼田の奥の川場山千貫松の坂をすき時に会津も程近き堺の沼辺にて宮の女房尾瀬氏が病あつしく終にはかなく見なししかは其あたり土を穿てこれを蔵し夫より宮は萩原と云処へ分入せ玉へしとぞ以下略す高倉宮御伝記の尾瀬中納言頼実卿宮に随従せしと云沼山にて病に罹り卒す沼より十余町隔て方二間計り高さ三尺弱塚の形を存す三河少将光明卿同前焼ヶ嶽の麓の沢にて病て卒す其処を三河沢といふ名を存す明治十五年桧枝岐村にて三河沢を焼畑して塚を発見せしと河原田盛一の信書あり小倉少将定信卿同前病気にて御供致し難く大桃村に残り止りぬ遁世僧流に身を託して大桃村瀧岩寺を開創すといふ新編会津風土記に記載せり 按するに玉石雑誌並利根郡追貝村海蔵寺大痩嶺瑞筆記土出村深見重太郎越本村笠原源七筆記傳説に拠れは安倍家の余類乱を避て深山に潜匿尾瀬原二楷段といふ所に城跡と唱ふるありて礎今猶存し諸所に物見を置て不時に備へたりとそ藤原村民家に蔵す系図御伝記を併せ考ふるに宮は此所に御杖を駐め玉へしものと思はるる也 上野国勢多郡多那村桑原清就の片品川を隔て多那村と相対す刀根郡尾合村に御座と唱ふる地あり是宮の休泊の縁故にて可有之亦吾妻郡より中山超にて御通行とせは峠を下り下川田村三里半程尾合村三里程追貝村追貝に御座とい申処あり追貝より二里弱御座入村也 一、石塔二基中山の西一町計にあり一は高さ二尺五寸余幅七寸五分計り付石経二尺四寸余寿清浄堅信士清銀太郎貞永為菩堤子孫修建仁二壬戌年四月二日とあり一は高さ二尺計りの無方塔にて付石径一尺七寸余清水寺二世数覚上人云々とあり上人は太田駿河守広綱嘗て兄仲綱の養子となる宇治の難を避て後鎌倉幕府に仕建久元年庚戌十一月十四日源右相上洛の共をして上り御白砂より逐電醍醐に入り僧となり数覚と号し世に出ずとあれと窃に小川荘中山に来り宮に住ひ延応元巳亥年十一月十六日寂城戸口に葬ると云 一、百八燈山、中山の東にあり御廟山と相対す山勢南北に麗ななめし高から□昔高倉宮ここに住玉へしときに百八の燈火を挑けし所故名つくと云 一、中山には清銀太郎貞永之に居て警護す子孫中山にあり又貞永の遺物也と云太刀長二尺六寸三分込身八寸一分五厘無銘東山村佐藤傳十郎預りてあり 一、一の城戸舘跡野村地内にあり小出川に枕（のぞ）む渡邊丁七唱（となひ）中山御所守衛の為茲に住し栗瀬村八幡城をも兼ねしと云又唱仲遠兄弟の五輪なりと傳ふるもの中山城戸口観音堂の下あり 一、合瀬川舘上條二の城戸と云猪隼太其子藤五郎茲に住して中山御所守衛をなせしと云 一、渡邊丁八仲遠は津川の地に舘を築き警護す子孫旧野村にあり 一、佐藤兵庫仲清は東山村鏡山に舘を築き護衛す子孫東山にあり 一、清銀次郎貞行は室谷村に住して警護す子孫室谷にあり 一、清銀三郎貞方は□沢村に居住して警護す 一、橡堀村広瀬ヶ城と云ふは会陽小川風土記に古柵跡は東西二十五歩南北四十歩城山の高さ三町はかり一名を物見か城とも云ふ以仁王の中山の御所守護又は敵を防かんために備へたりと見ゆ此所より野村と云遠村まて見ゆる同村長谷川源左衛門先祖住せしと云 一、押手村より安用村接続の川岸石壁の上に三段の土塁を築き道路を眼下に見下して石弓を仕掛防戦に備へし跡と云あり是を村民は戦傷岩と呼なり 一、野中村今両郷村に属す猪隼太屋敷とて方三十歩はかり小壟（こつか）を回らしたる有り又隼太清水と云冷泉墓樹かと見えて榎大樹なと存せり祖父神祖母祖とて隼太夫婦の影堂に門の扉一片を猪氏なる民家に蔵む 一、高出村新編会津風土記会陽小川風土記に拠るに往古月見御所と云あり今に御所神社あり月見院を祭ると云一説には高倉宮御子四の宮を祭るとも云短刀一口あり長九寸八部無銘古作と見ゆ月見御所の物と云傍に清水あり御所清水と云周り七間早歳に雨を祈る所なり宝物に兜釜の前立物一枚地は革にて黒表の方所に剥落す裏に鍬形をうちしあとあり寛文の頃まては金の鍬形もありしとぞ御所神社の傍の山の上に古塚あり老松一株あり是を村民は銭神塚と云或は銭上とも書す是ぞ月見王の御墓なりと云又嶺寒寺の後の山つつき王ヶ嶺一に御ヶ嶺とも云空堀を周らし古塚あり一草一木も伐採すれは祟りをなすとて恐縮して其所によらすとぞ里俗口碑に傳ふる所元弘建武の頃高倉宮の御子孫此村に来り住す両所に其墳墓なりと云御所神社の地は室谷川に臨み東に開けて西に六倉の高山を負へ稍隔たたりし山の端を分出つる月の光遥に水面に映し涼風を迎ひ或は花のあかかれ月に嘯きたらんは絶景の地也月見の御所の名も言を食むとは言可らす此村の高井山嶺寒寺文治二年長谷川土佐信春開基曹洞宗也寺前に清水あろ周り五間土佐清水と云王の御位牌二つあり一は大円覚高倉院尊位一は月見院尊位と記したり年号月日は記さす又長谷川土佐信春舘跡あり同二郎信清と共に宮の御所を守護せしとうふ 一、高倉宮御遺物との傳ひにて東山村旧村長佐藤傳十郎預 一刀 一口、長一尺二寸一分、無銘 一椀、朱塗、五器、五具、 一南京製皿、絵牡丹、十枚 小白根村杉岸と改め宮沢と改称村司権蔵か家に宿り玉ふ大新田村権八と云者御迎に来り柳津村に石川冠者者有光と云あり平民に属す宮を襲ひ奉るといふ風説ありと告けれは路を転して只石村の山越にて森戸村へ御越村民大勢路を伐開く後大内沢と云ふ幸ふして森戸村へ出て八総村に司蔵人と云者の宅に宿り玉ふ森戸村に宮清水と云あり宮の召上られしよりの名なりといふ中山嶺通り瀧原村郷士藤馬と云者の宅に宿り玉ふ中荒井村郷士数馬の家に御休田島村弥平次に宿り玉ふ檜原與八水秡村三五郎御休にて山本村に着玉ふ今大内村なり一説に萩原村倉谷村にも御宿り玉へしと云竹杖原腰掛石新編会津風土記に八総村古跡竹杖原村東拾町余中山嶺に登る路にあり東西二十町南北九町余中山峠を越し石に踞して憩ひ玉へしとて土人腰掛石と称せしか其所を詳にせすと云御所橋瀧原村地内湲谷両傍岩石峙ちたる大難所あり其辺に樵者四五人削り居たる木材へ腰を掛けさせられ暫時休息し給ふ心無き賎の男と雖も流石に高貴の御方険路に憊れたまふをいたはしく惻隠の情を起し削置たる材木を橋に架其上を渡し奉りしよし此所を御所橋といふ 大内村会津新編風土記に昔山本村と称せしを治承の頃高倉宮以所を通り給へしより今の名に改むといふ祠掌長沼秀善所蔵旧記及口碑に拠るに宮には越後国へ御降の由聞傳へ平家の所属柳津住人石川冠者有光武家評林に有光柳津源太夫石川冠者とあり又会津古風土記に石川冠者有光柳津に住すとあり軍兵二百余人引卒高峯へ押寄けれは石川勢へ降し狂風石を飛はしけれは石川勢恐れ惴き敗北す故に高峯嶺を火玉嶺といふ再ひ山本村へ御引戻伊南へ還り玉ふ御徳を慕ひ村を大内と改め高倉神と崇祭す又旧水秡村に高倉山といふぎ然たる峻山の腰小峰に社ありて同く高倉神と崇祭す山も右神を祭りしよりの名なるへし神社に詣る道の左の方に衣装塚とてありこは新たしき御衣を賜りけれは古き御衣を下し玉へけるを埋めて築きたりとそ旧萩原村にも高倉神を祭りてあり御通行の折御寓所或は御休憩なされし村まりとそ 桜木姫墓大内村御側原にあり高倉宮后紅梅御前と共に君夫の御跡を慕ひ落給ふ岩瀬小藤太堀八十治御供せり八十治は当国入口法坂峠の下にて落命す山本村へ着旅疲れにて病死乙部重頼の女房也墓に桜木一株を植て祭る按するに御側原の字も右によりて呼ふものならん紅梅御前は戸口村にて御逝去御前社と祭りて鎮守とす 針生村より入小屋の間三里余の山路なり針生村七兵衛大峠まて駒にて送り奉る頂にて駒を止め願み玉ふ是より駒止峠と呼ふ旧は木地山といふ幽山険路を経て澤口村へ玉ふに土地開けしは是山は口なりと宣へしより山口村と改ためしとぞ 宮床村旧稲場村といふ村司小三郎宅に休ませ玉ふより宮床と改ためしぞ 界村は旧井出澤と云御悩のために十郎左衛門正根の宅に七日御滞在になり草の清水を飲み玉へしより病愈させ玉ふ故に宮清水と唱ふ正根の子孫與三郎と称す口碑に傳ふるに御記念にとて下し賜へし御書付秘め置たるを子孫に至り汚穢に触るるを恐るるとて川原へ持出し焼たりとぞ此村にて方位を問はせ玉ふ伊（これ）より南伊より北と答へ奉りしより伊南伊北と郷の名になれり村は界に当る故の名なりとぞ 片貝村中丸善三郎所蔵宮の御筆といふあり真偽は愚眼の及ふ所にあらすと雖も揮符驚鬼神活筆走龍蛇の勢ひあるを覚ゆ乙澤元は木崎と呼ふ宮此所は何村と御訊問ありけれは過ぎ来りたまへし和泉田村の支村と答へけれは然らは乙の村なりと宣たまへしより乙澤と改ためしといふ 新編会津風土記に長濱村の古戦場村の西六町にあり唱崎と云傳ふ高倉宮を石川冠者再ひ襲へ来りしかは唱此時清水淡路といふ者を怙（たの）み宮を楢戸村へ落し奉り淡路と共に黒谷村を背に当て防き戦ひしかは石川終に此所にて討れ軍兵も多く討死せしとぞ因て屍を一処に埋めし所なりとて長十間計り幅三尺許りの塚あり少し隔て石川塚あり此時辺より剣の朽ち折れたるを得ることありとそ故に唱崎と呼ふと記せり 楢戸村瀧王印宮より御紀念として品々賜はりける内茶釜あり蓋なし頗る古きものなり又宮の御簾中紅御前の斎せられたまえし無銘の短刀一口（ふり）あり紅梅御前戸石村にて逝去し玉へけれは宮の御歌もありしか蠧（トツ・きくいむし）のために跡形も無くなりしと云傳ふ 叶津村長谷部保三郎は昔叶津に来り讃岐のけを継きりとて家に傳ふ宮より拝領せしといふ陶器杯経四寸二分深一寸一分輝焼にして内に梅に根笹の焼付あり 人口に膾炙（かいしや）する宮の御詠なりとて「富士を見ぬ人に見せはや陸奥の朝草山の雪の曙」朝草山は只見叶津より引続き六十里越八十里越の間に聞へたる大山なり 大内村御宿は戸右衛門戸石村は五郎兵衛針生村は七兵衛入小屋は太右衛門界村は十郎左衛門長濱村は淡路楢戸村は瀧王院叶津村は讃岐何れも子孫存在すとぞ桧枝岐村より田辺通り御宿せし者の子孫存亡未詳 石川系譜に石川四郎住奥州治承四年庚子七月二十五日会津南山伊北於長濱有光の子光家為渡邊丁六唱討死す長濱村西唱崎之畠中に有光家墓石川塚と云と記載せり 宮は叶津村司讃岐宅に宿り玉ふ讃岐村中の壮健なる者十八人を撰み越後国へ赴玉ふ御供とす小川権蔵其他郷中村司等相従ひ瀧王院先達にて嶮はしき山路を超玉ふ村より三里登り猿楽と云所あり此処にて猿楽を御覧に入れ憂さを慰め奉りしと云又一里計り登り御宿りの地を宮泊と云同所より頂を踰二里程越後の地に抵り御宿の地を御所平と唱ふ御所山御所清水あり越後古絵図に御所山御所平と記載せり道より少し下り窟あり五六人も容るへし宮の御宿りの処なりとて猟師も憚りて宿らすと云御伝記に猪隼太を小国頼行の許へ使者に立させられ山を下りて吉ヶ平村に宿り玉ふ送り奉りし者共は追々御暇を賜はり瀧王院権蔵の導きにて御潜行の途上加茂明神の前に於て頼行御迎として出たるに逢玉ひて御喜悦斜ならす頼行の居城へ入り玉ひて瀧王院権蔵に暇を賜はりぬ 吉ヶ平村旧名主椿荘三郎は乙部右衛門尉の裔なりと云伊豆守仲綱大病に付き此処に残り止り乙部は宮の命を受て看病の為に残りぬ仲綱病重り八十里越の清水を求め僕をして汲しむるに他の水を汲来りて進む求めさる水にあらすと叱り玉ふ縁りて高石清水、御前清水、御所清水、伊豆清水とも唱ふ終に簀を易られたり上の平に壮広なる墓あり苗字を椿と改称して存在す椿氏に秘め置ける系譜あり相続の者にあらされは見を許さすと小柳傳平の周旋にて閲する事を得さり要を摘むに四男乙部右衛門尉高倉宮足利又太郎の助けにより奥州へ下り玉ふ御供にて奥州会津黒川西に当りて叶津口と云処八里程大山を越へ越後国に渡る山麓葦原平に至る（此処虫はみきり）して此処に住す祖は大和国長谷部畳より（虫はみ不明）按するに玉海に仲綱甲斐国にありと云土人の告礼記されたり然るに会津の記録に仲綱の名不見又乙部の名は記録にありて其子孫なし不審を懐けり泝て勘考するに仲綱は病のために後れ漸く御所平辺にて追着しものと相像せらるるなり 越後野史水原小田嶋某蔵書笠原重信抜粋して寄せらるるを見るに高倉宮潜居地或説に治承中宇治川の役に高倉宮の軍破れしに足利又太郎忠綱敵なから王を最惜思ひ奉り我臣に命し潜に越後に落し奉ると云又伊勢国山田文庫に蔵せる神譜記にも高倉宮の落玉ふ事載せてありぬと云と記せる 北越略風土記船越村神保孝三郎蔵書に宮の事記載してあり高倉宮御伝記と大同小異なり 吉ヶ平村梅澤伊八長野村大竹名作飯田村小柳傳平筆記に宮御潜行口碑の傳ひ委細に記しあり飯田村にも御泊りになりしとの伝記あり 小国家の城跡は岩室石瀬の間天神山の古跡ある趣は岩室村高嶋翁平に承りぬ亦小国澤村字小松入小国頼行以降数代住居せしと云古跡は小国澤村小松喜代の案内にて探りぬ 宮には暫時安堵の思ひをなし玉へけれとも平氏の一族城氏越後の国を領し威権を振ひけれは頼行遠く慮り□に同国会津領に隣りたる東山村の内中山の深山幽谷の僻地に隠し奉り従臣諸所の要害を守り警護し天命を終らせ給ふ今に四月三日は御忌日なりとて小川荘中休日にして尊崇し奉る也 （北越史料叢書 二 ） |