家紋の話V(関東幕注文)



上杉家文書にある「関東幕注文」は、越後長尾景虎が、永禄三年(1560)、関東公方足利義輝と関東管領山内上杉憲政を伴い関東に責込み、北条氏を攻めた永禄四年(1561)に、関東の上野国・下野国を中心とした諸城主・豪族に参陣を促し、各氏の幕紋注文を作らしたもので、本書記載の諸武将は、宇都宮氏、小山氏の二大勢力の影響を受け、巴紋の使用氏が多く見られ、包紙上書には「二印 関東衆幕紋書付」とあります。
(本文では各武将の後に幕紋の記載が有りますが、本編では紋を中心としたため、番号を符って幕紋を先に記載しました。文中幕紋のあとに同・同もん・同紋・おなしもん・おなしく・をなしくの記載には番号をつけず、すハま・すわま等異字にはそれぞれ番号を付けましたが、注1に記載しましたが、途中に脱落が有ると考えられ、番号は整理上付けただけで、まつたく何の意味もありません)
 1、「幕紋」について 2、「被官・家風・同心」について 3、「すそこ」について


二印 関東衆幕紋書付
関東幕注文 上州
白井衆
1、  九ともへにほひすそこ
2、  ききょう
3、  三かしわ
4、  立ニ二引きやう
5、  にほひかたくろ 注2
6、  にほひかた黒
7、  立ニ二ひきりよう
8、  三のしろ 注3
9、  かたはミ千鳥
惣社衆
10、 わうふの丸すそこ
11、 団の内六竹
12、 二ひきりやうすそこ
13、 うちハの内切竹にほうをう 注4
14、 丸之内の上文字
15、 二ひきりやうすそこ
16、 瓜乃もんすそこ
17、 三ひきりやう
18、 二引りやう
19、 いほりの内の十方
20、 二ひきりやう
21、 かちのは
22、 藤の丸に根篠
23、 うりのもん
24、 うちわの内ニきり竹にほうわふ
25、 うりのもん
26、 九ともへにほひすそこ
箕輪衆
27、 ひ扇
    同文
    同紋
    同紋
    同紋
    同文
    同紋
    同紋
    同紋
28、 丸之内の二引りやう 上ニ今ト文字
29、 六れんてん
30、 ともえ
31、 丸のうちの二引りやう
32、 すハまニ平賀ト云文字
33、 にほひ中黒
34、 ひ扇
35、 団之内ニ松竹
36、 蝶之円
37、 六れんてん
厩橋衆
38、 檜扇
    同紋 
39、 かたはミに千鳥すそこ
40、 かふ竹の丸之内につふ梅五ッ
沼田衆
41、 三かしらのひたりともえ
    同紋 親類同
    同紋
    親類 同
    同紋
    親類 同紋
    同     
    同 親類 同
    同紋     
    親類 同  
42、 ちかい鷹の羽 
43、 ますかたの内の月
44、 岩に松の紋 注5
45、 竹ニ団之文  
岩下衆
46、 六葉柏 
    同六葉かしハ
    注1
47、 五のかかりの丸之内の十方 注6 
48、 二ひきりやう   
    おなしもん    
49、 左右之九ッ巴ニ立二引りやう
50、 三反之左巴小文白の字   
51、 四のかかりの丸の内之十方
    同もん        
    同紋         
    同           
52、 すそこに三ッわちかい
53、 すそこにますかたニくもる夜の月 
    同紋        
    同          
54、 いほりの内十方    
55、 五ノかかりのいほりのうちの十方 
56、 四ノかかりのいほり之内の十方  
    同もん         
57、 鐙のかく        
    同          
    同もん        
    同           
58、 三反之右巴    
59、 すハまにうりの文 
60、 すハま       
61、 もつかうニたて二ひきりやう
    同            
62、 三段かかりの丸之内之十方 家風 
63、 二反之左巴    
64、 丸之内ニ亀甲々々内ニ十方  
65、 丸之内ニ四のかかり    
下野国 足利衆
66、 九ッともへにほひすそこ 
67、 くわのもん    
68、 わちかい     
69、 丸之内の十方 
70、 あふふの丸   
71、 扇         
72、 月         
73、 かふ竹団    
    おなしもん    
74、 わちかい     
75、 ミのしろ 注3  
76、 かりかね     
77、 すわま      
78、 団之内二本之字
79、 すハま      
81、 いほりの内之十方
83、 三引りやう
82、 左ともえにかしハ 
83、 わちかい    
84、 すわま     
85、 すハま     
86、 ますかたの月 
87、 たかのは    
88、 扇        
小山衆
89、 二かしらのともえ
    同もん     
    同紋  
    同もん
90、 すはまニともえ  
91、 丸之内ニ二ひきりやう   
92、 にほいかたくろ 一文字にかたはミ
93、 一文字ニかたはミ 
94、 三反之三ともへ     
95、 丸之内の二引りやう   
96、 三反之左ともへ三ッ    
97、 左ともへすそこ
98、 左ともへ五ッ        
99、 左ともえに上文字    
100、左ともえニ上文字   
101、左ともえに雲    
102、ほうわう      
103、右三ッともへに名字  
104、右ともへ     
105、ひあふき 注7    
宇都宮へ 寄衆
106、地黒之左ともえ  
107、地黒之左ともえ     
    同紋        
    同        
108、かしハの丸    
109、ともえ         
110、梧のたう  
桐生衆
111、かたくろ      
112、梶のは         
113、すハま       
114、かたくろ    
115、すハま     
116、きつこう     
117、鷹のは     
118、根篠         
119、丸之内三ッすハま   
幕之注文 古河衆
120、水あをい三本たち  
121、水あをい二本たち    
    同           
    同          
    同            
122、二ひきろやう      
123、たてすな         
124、四ッめひ    
梁田家風
125、扇之内之月二七本松 
126、きつこうの内の舞鶴二さん木 
127、瓜の文二一文字      
128、ますミの月に十文字 注8  
129、うりのもん      
130、丸之内之立相雲     
131、三ひきりやう       
幕之注文 武州之衆
132、月二三引りやう 
133、三ひきりりやう  
134、三ひきりやう   
    おなしもん    
    をなしもん    
    おなしもん     
    をなしく     
135、二かしらのともへ   
136、かたくろ  
137、団之うち二本之字
138、かたはミ      
139、かたはみ    
140、丸之内之二ひきりよう  
141、鷹の羽ニ梅花     
142、すハま      
143、丸之内之二引ひきりやう  
馬寄 羽生之衆
144、梅之紋 
145、かたはミ    
146、くわのもん  
147、二本鷹之羽    
148、ふたのかかりの五つき地くろ
149、五つき
150、五つき 
151、五のかかりの五つき
152、丸之内十方      
153、竹に雀  
154、くわの方 
155、月ニしやうひ 注9  
156、竹に雀          
岩付衆
157、かふらや左前
158、一てうのは二葉  
159、七ッ月   
160、団之文   
161、十六目ゆい 
162、りんたう  
    同    
163、一用 注10     
164、鷹之羽       
165、いしたたみに三ともへ  
166、おもたかニ鶴  
167、桐とう   
168、九字   
169、釘ねき  
勝沼衆
170、ひたりともえ 三ッ三かしはハ二ッくミあハせ也
171、かりかねのもん
172、団之内の十方 
173、鷹之羽  
174、三葉かしハ 
175、かた黒の月 
常陸之国
176、すハま     
177、きつこう之内ニまつかわひし 
178、すわま  
    おなしく   
    同    
    同  
179、きつこう之内ノ根菊  
    おなしもん        
    同    
    同      
180、きつこう之内之きちかう
    同             
181、ひたりともえ       
182、丸之内の上文字    
183、ハりひし        
184、ハりいし        
185、ともへ二かしら  
186、一文字ニいしたたミ 
187、一文字ニうり之文
188、左ともえ三かしら 
189、はしり竜 
190、ともへに二引ひきりやう 
阿房国 幕之注文
191、二引りやう        
192、三ひきりやうすそこ    
    おなしもん      
    をなしもん 
    同文      
    同     
193、水色すそこ   
194、ひたりともへ     
195、藤之丸           
上総衆
196、鐙のかくともへ       
197、ひしもつかうニにほひすそこ 
下総衆
198、井けたニ九よう



長尾孫四郎(憲景)
外山民部少輔
大森兵庫助
神保兵庫助
高山々城守(行重)
小林出羽守
小嶋弥四郎
三原田孫七郎
上泉大炊助

安中
小幡三河守(信尚)
多比良
大類弥六郎
萩原
高(馬)庭
被官 高津
瀬下
小串
神谷
多胡
諏方
荒符(蒔)
苅部
反町
栃淵
長尾能登守殿(景総 長健)

長野
新五郎
南与太郎
小熊源六郎
長野左衛門
浜川左衛門尉
羽田藤太郎
八木原与十郎
須賀谷筑後守
長塩左衛門四郎
大戸中務少輔
下田
漆原
内山
高田小次郎
和田八郎
倉賀野左衛門五郎
依田新八郎
羽尾修理亮

長野藤九郎
同彦七良
大胡
引田伊勢守

沼田(顕泰)
小川
岡谷右馬亮
尻高左馬助
発智形部少輔
沼田藤三郎
家風 和田図書助
発智小四郎
家風 恩田孫五郎
同与右兵衛尉
久屋内近助家風
金子監持丞家風
松井大学家風
阿佐美小三良同心

斉藤越前守
山田

横瀬雅楽助(成繁)
新田御一家西谷五郎殿
同三原田弥三郎殿
泉中務大輔殿
金井
雅楽助親類常陸守
同新右衛門尉
同兵部少輔
新十郎
新次郎
同心 小比木左衛門次良
同心 同伊勢守
同心 同宮内少輔
同心 赤堀又次郎
同 山上藤九郎
同 同上平六
同 朝原式部少輔
同 善彦太郎
同 同中務少輔
同 同和泉守
同 同武井助四郎
同 沼田一姓新開弥三良
小山一姓薗田新七良
同 市場弥十良
田部井孫四郎
同陰崎守
家風 矢内弥十良
同 小山一姓大沢彦四郎
同 林佐渡守
同 同蔵人

長尾但馬守(景長)
同心衆 小野寺
同 県左衛門
同与 岡部弥三良
同与 安中将監
家風 平沢左衛門三良
 同心 安保次郎
小幡次郎
同 小幡道佐
同 名草
同 小保
同 毛呂安芸守
同 本田左馬助
同 本庄左衛門三良
同 市場伊勢守
同 久下新八郎
同 浅羽弥太良
同 三田七郎
同 県七郎
同 大屋右衛門
同 大屋上総介
小比木大炊助
新居与六
平沢宮内左衛門

小山殿(秀綱)
同大膳
同右馬亮
家風 水野谷左衛門大夫
岩上炊助
粟宮
細井伊勢守
妹尾平三郎
山河弥三郎
粟宮羽嗜守(伯耆)
宇都宮
笠間孫三郎 親類
塩屋左衛門大夫 親類
上三川次良 同
多宮虎寿丸 同
西方又三郎 同
田代中務太輔
芳賀伊賀守(高定)家風
益子右衛門尉 同
神太夫 同

皆川山城守(俊宗か)
同駿河守親類
同又五郎
同形部大輔
膝付式部少輔家風
長沼玄番允(蕃)同
 殖竹雅楽助 同

 桐生殿(助綱)
安威式部少輔
 薗田左馬助
佐野殿(昌綱)
家風 津布久常陸守
 山越大膳亮
新居
松崎太和守
阿久沢対馬守

梁田(晴助)
同下野守
 同右馬亮
同平四郎
同平九郎
一宮河内守
二階堂次良
相馬

横田藤四郎
周西藤九郎
石川彦六
仙波左京亮
箕匂大炊助
綱嶋小三良
賀嶋良右衛門尉

成田下総守(長泰)
親類 同尾張守
親類 同大蔵丞
親類 同越前守
親類 田中式部少輔
同 野沢隼人佐
同 別府治部少輔
同心 須賀土佐守
同心 鳩井能登守
 同心 本庄左衛門佐
家風 山田豊後守
同 田山近江守
 同 山田河内守
手嶋美作守
小田助三郎
家風 富沢四良右衛門尉

広田式部大輔(直繁)
河田善右衛門大夫(忠朝)
 渋江平六良
岩崎源三郎
藤田幕
飯塚
桜沢
猪俣
岡部長門守
深谷御幕
秋元掃部助
行草源左衛門尉
市田御幕

大田美濃守(資正)
大石石見守
小宮山弾正左衛門
浅羽下総守
本間小五郎
春日八郎
同攝津守
埴谷図書助
小宮右衛門尉
広沢尾張守
浜野修理亮家風
河内越前守家風
賀藤兵部少輔
川口将監家風

三田弾正(綱秀)
毛呂
岡部
平山
諸岡
賀沼修理亮

宍戸中務太輔
彼家中友部大和守
小田中務少輔
筑波太夫
柿岡形部太輔
岡見山城守
信太兵部太輔
同掃部助
田土部紀四郎
福田左京亮
菅谷左衛門尉
同次良右衛門尉
平塚形部太輔
屋代彦四郎
真壁安芸守
彼家中白井修理亮
坂本信濃守
高久将監
多賀谷修理亮(政経)
彼家中勝徳寺
行田宮内少輔
水谷弥十郎

里見民部少輔殿(義弘)
正木大膳亮(時茂)
同十郎
同大炊助
同左京亮
同兵部少輔
三野弥次良
正木大膳亮家風吉田右馬助
河野四良左衛門尉

酒井左衛門尉
山室治部少輔

高成(城)下野守

    以上
                     「太田市史 資料編中世」収録資料より

1、「幕紋」について
軍幕で使う幕は、ふつう幅五枚分の布で出来ており、中の三布を黒くして、上と下の二布を白くしたものが大中黒で新田の紋、白・黒・白・黒・白の五段にしたのが足利の二引両紋です。又、幕の紋の据え方で、五ノ懸(いつのがかり)・三ノ懸というのは、幕に据えた紋の幅が、五布に懸かり、三布に懸かるという事で、元来陣幕は、大抵その幅が「五のがかり」から成ったもので、沼田頼輔著「紋章の知識」では「五ノ懸」の「ノの字」は「田の下に町の字」を当て、布の古字で昔から幕に限ってこの字を用いたと述べていなす。もっとも布の幅を数えるのに「幅(の)」を用いるので、五幅懸(いつのがかり)かもしれません。その紋の大きさが幕の「五幅」に及ぶときは五ノ懸、「三幅」に及ぶときは三ノ懸といい、この大小の区別は家格の区別を表すものとされています。

2、「被官・家風・同心」について
文中、被官とあるのは、大名・小名に直属してその支配をうける土着の武士・地侍で、家風は、譜代の家臣を指し、又同心とは、本来は独立した国衆層ですが、軍事的に結集して従属した者を指すと考えられています。

3、「すそこ」について
すそこ(裾濃)は、旗の下部を濃色(紺や黒)に染め付けた旗独特の工夫で、旗印としての識別性を拡げ、中世以降も良く使われています。妻黒(端黒・つまぐろ)や妻紅(つまくれない)の様に、縁を黒くしたものや、紅色で縁をつけたものも盛んになっていった。


注1、本文中、横瀬雅楽助以下は新田衆で、岩下衆の六葉かしハの山田氏との間に脱落があると考えられています
注2、NO5「にほひかたくろ(匂片黒)」は藤岡市史では方喰(かたばみ)紋と推定
注3、NO8・75、「三のしろ」「みのしろ」紋は二両引きの事か
注4、NO13、「うちハの内切竹にほうをう」は団扇の内に桐竹鳳凰
注5、NO44、「岩に松の紋」は松井岩笹
注6、NO47、「五ノかかりのいほりのうちの十方」は五布幕に懸かる七宝紋
注7、NO105、「ひあふき」はひ扇紋
注8、NO128、「ますミの月に十文字」は真澄の月(月夜)に十文字
注9、NO155、「月ニしやうひ」は月に猩緋か
注10、NO163、「一用」は一様、又は一葉(銀杏)か


参考図書
太田市史 資料編中世
旗指物
武家の家紋と旗印
家紋・旗本八万騎
家紋大図鑑
家紋大全
紋章の知識
日本紋章総鑑
日本紋章総覧
数え方の辞典

高橋賢一
高橋賢一 
高橋賢一
丹羽基二
本田一郎
沼田頼輔
千鹿野茂

飯田朝子 町田健
太田市
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