戦国馬の裏話



戦国時代の馬はポニー?
もともと野生のウマは、第一にアジア大陸中央に分布する体高約130cmの小型の草原型、第二は南ヨーロッパやウクライナ地方の分布する高原型で、体高約150cm前後でアラビヤウマはこのグループから家畜化されたと考えられています。第三は森林型で、南フランス・スペインなど、体高180cmぐらいの大型馬で、この三生態に分けられると考えられています。馬が古代、重要な役割を果すのは、メソポタミヤで戦争用道具としてウマに車を引かせる戦車が突如として現れ、シリア・バビロンを征服していった。その後、騎馬軍が黒海周辺の草原地帯で発生し、ペルシャ・モンゴルなど騎馬民族は大帝国を建てていった。昭和二十八年鎌倉市材木座で、元弘三年(1333)新田義貞の鎌倉攻めで戦没した人びと556体と、128頭分の馬骨が出土しました。計測の結果、馬の体高は109〜140cmの間にあり、平均129cmであったといいます。現代の馬は、150〜170cmで、体高148cm未満はポニーと呼ばれています。宇治川合戦で、佐々木高綱が乗っていた馬は、名馬生食(池月)で「八寸(やき)の馬とぞ聞えし」と平家物語に書かれており、八寸は四尺八寸(約145cm)の意で、馬は四尺(約121cm)を定尺とし、一寸高いものを「一寸(いっき)」四寸高ければ「四寸(よき)」と言うそうです。藤原国衡の馬は、奥州第一の駿馬で、高楯黒と称し九寸の名馬であったといいます。日本在来種は木曽馬・宮古馬等8種が認定されているそうですが、こうした我国古来の馬は、馬格が小さく気性も荒く、扱うが大変だった様です。体重50キロの人間と甲冑40キロ計90キロの重さを乗せ、この小さな馬はどの位走り廻れたのでしょうか。この時代、戦国武将は脚の短い小柄な馬に乗ってどんな走りで戦いをしていたのでしょうか。
かつて中国は長距離を駆ける良馬を求めた。汗血馬といわれた千里を走る馬だ。特殊な走り方をする蒙古馬を乗りこなす騎馬民族に対抗するためだ。左右交互に前後の足を揃えて走る側対歩と歩行技術があるそうだ。今の普通の馬の走り方は、斜対歩といって右前足と左後足が同時に出る。側対歩では右側の前足と後足を同時に出て、続いて左側の前足と後足という動きになる。水平に進み上下動が少ない。身体(馬体?)は、左右同時運動運動を繰り返すと急速に消耗するという。普通の走り方では5キロともたないと言う。対足歩では上下運動が少なく30キロは走れると言う。またこの歩行技術は、揺れが少なく、馬上で弓を射るのに適している事である。毎年、「愛馬の日」に宮内庁主馬班によって「母衣引」「側対歩」の馬の走り方が披露されている。「母衣引」は背中につけた長さ約10メートルの絹製の吹き流し「保侶」をなびかせて走る。この宮内庁主馬班の技術、何時頃のものか判らないが、母衣がなびかせ側対歩で進む姿は非常に美しい。 日本でもこの歩行技術が戦国時代には合戦などで使われていたと言う。戦国時代の絵図には側対歩の調教場面が描かれているとのこと。もっとも絵師が馬の歩き方を知っていたかどうかは不明だが。人間の走りでも同じような走り方があるという。「ナンバ走り」と言われている。説明を読んでも理解できなかった。
ここからは、現代の馬の話。
馬の調子の良し悪しを見分けるポイント、曰く「動きがやわらかい」「肩の出がよい」「踏み込みが深い」と言う人が多い、しかしパドックで見るのは、常歩(なみあし)で競馬は襲歩(ギャロップ)です。常歩の動きで襲歩の状態が分るのでしょうか、ここからが専門家の話です。肩の出のよしあしとは、馬が前肢を前に踏み出すとき、その移動がスムーズで、ゆったりとした大きな動きであればあるほど「肩の出がよい」といわれます。推進のパワーは、もっぱら後肢で生み出され、このパワーを、馬は最後に着地する一本の手前肢で受け、その着地点を支点として馬体全体を前方に送り出します。従って手前肢はなるべく遠くに着いたほうが、飛びが大きくなり、スピード・持久力が期待できる。関節の柔軟性や前肢を前方に踏み出す筋力は常歩時の動きにも反映され、踏み込みの深さは、後肢を一歩一歩出来るだけ前に踏み出し、ぐいぐいと歩いているような馬を「踏み込みが深い馬」と呼び、歩いている馬を横から見て、前肢の着地点を基準に、後肢がどのへんに着くかを見ることで、比較的容易に判断することができるそうです。ギャロップ時の推進力はもっぱら後肢が生み出し、馬の後肢は重心より前に着地する。馬の重心が後肢の着地点を過ぎると、もう推進力は働かず、ギャロップ時に有利となる後肢の踏み込みの深さは、もちろん常歩の動きにも反映されるとのことです。ただし、なかなか簡単には馬の動きの良し悪しは分るものではなく、経験と精進次第だそうです。


参考図書
謎とき日本合戦史     鈴木真哉     講談社現代新書
馬の動き           楠瀬 良      JRA競走馬総合研究所


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