軍記の裏話



軍記物語といえば、あの有名な平家物語「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響あり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰のことわりをあらわす。おごれる人も久しからず、」(あれだけ覚えさせられたのに、出て来るのはここ迄です)がNO1だと思います。平家物語は平家一族の興亡の軍語りで、ほとんどの人が、一・二行は覚えていると思います。平家物語を挟んで、「保元物語」「太平記」が代表格であり、この三編あたり迄が文学作品として、格調高く夫々独自の軍記物語の世界を描いているのではないでしようか。「保元」「平治」「平家」の物語に「承久記」を合わせて、「本朝第四番合戦状」と言うそうです。「太平記」以降、それぞれの年代の起きた事件を捉えた軍記、特定地域に起きた合戦や事件を追かけたもの、特定の戦場における合戦の経緯を記したもの、又は特定の家を巡っての戦いの記録、その他特定の武将を中心にした戦いや、言行録など大量に各軍記物語が生まれ、これらの軍記物語のほとんどは特定時期・特定地域のおける合戦の記録を子孫に残すため、家々の歴史や一族の武功の記録を書きとめたもので、これがいわゆる専門家が言う「俗書」が多くなった理由だと思われます。南北朝時代、九州探題を務めた今川了俊が「太平記」について、記述の十中八九まで「つくりごと」であると述べています。また大久保彦左衛門は、小瀬甫庵の「信長記」について、三分の一程度が本当で、三分の一くらいが似た様な事が有り、残りの三分の一がデタラメだと述べています。しかし素人には、この残りの三分の一が最も面白い所で、特に合戦の当事者又はその近親者達による軍記は、「切実な合戦の場面を作り、絶望的な悲惨な現場、自己犠牲の行動」を捉えながら、物語風に仕立て、感動的な軍記物語を創作しています。1家々の歴史、2一族の武功の記録、3切実な合戦の場面、4絶望的な悲惨な現場、5自己犠牲の行動、以上五大要素の部分が史料としての信憑性が問題視される所だと思います。しかし軍記物語は史料的な価値が小さくても、この五大要素の部分が物語として面白く、山之内天正記・伊南軍記・伊北軍記などに心が惹かれるのだと思います。



参考文献
軍記と武士の世界
軍記物語の世界
偽書「武功夜話」の研究
栃木孝惟著
永積安明著
藤本正行・鈴木真哉著
吉川弘文館
朝日新聞社
洋泉社


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