武者言葉



 惣して武者詞重地軽地なとど唐言らしき事をいはす、足懸り足入深田嶮難野会山の手かけたて、尤平地野つつき弓手おかり馬手かわなとど世の常の詞葉に卑劣柔弱なる言葉のなき様に申事、武勇のみかき心掛の験にて一生瑕瑾をうけす、犬死せさるの一得有、忠孝の侍蔵可秘蔵に簡なり。


一、 大将軍之軍門におもむきいふを御進発と云、其以下をは出ると云、平人ノ陣江立を
   陣立亦出陣と云なり
一、 陣中に遇留有をは上下共に在陣と云、敵とにらみ合て陣を張るをは対陣と云
一、 陣中の詞に一日一夜を陣場と云、五日もあるを陣所と云、陣中とは打立て備たる中
   へ騎馬者を立を云也
一、 軽重によらす子孫々伝る物を拝領と云、当座の御褒美をは頂戴と云
一、 敵所有の道具弓鑓太刀甲指物鞭団母衣を取来るをは分とりと云、此外は乱捕と云、
   下卒取をは乱妨と云
一、 敵の来るを寄向と云、味方より寄るを押掛押寄と云
一、 惣手の先を場先と云、一組の先を手先と云
一、 敵の除を引と云、味方の除をは揚ると云
一、 敵のよはる色をひるむと云、味方をは疲る休ふななと云べし
一、 鬨声を造ると云、勝を揚ると云
一、 甲は大将甲は一頭と云、又一張二張と云へし、敵の甲幾刎と云
一、 箙やなぐいは幾腰と云、靱(うつぼ)は幾穂と云
一、 旗は家々旗一流と云、対の旗昇馬印は何本と云
一、 楯一面貝一羽太鼓幾栖将机何脚と云
一、 跡より吹風を追手と云、脇より吹をひらきと云、はなより吹をは上りひより下ひよりと云
一、 城取詞の事新義の城をはきづくと云、古城を直すをは取立ると云、城をくづすをははく
   と云、城をとるを縄張と云
一、 城の表を大手と云、後を搦手と云
一、 本丸より二迄を丸と云、三を曲輪と云、四を外かわと云
一、 付城は付ると云、向城は築くと云
一、 矢倉井楼はつくと云、門は立ると云、番所を構ると云
一、 土居石垣はつくと云、堀はほると云
一、 敵の手疵は痛手かす手と云、味方をは深手浅手と云、自分に手は上下ともにかす手
   と云もの也
一、 敵の討死は討捕れたると云、味方の討死は遂ると云べし
一、 鑓長刀に付たるをは血と云、矢根に付をあとと云
一、 鑓は一番鑓二番鑓とせうびす、三番目の鑓は崩際の鑓と申ものなり
一、 一番鑓をは軍忠とせうし一番頭をは戦忠とせうす
一、 一番高名は此類無誉と云、二番の高名は勝たる覚と云、是に続をはけなける働と云
一、 山あいを切処と云、大河を難処と云
一、 森林をしけみと云、村里を尾陰と云
一、 田の中の道を縄手と云、細きをはくろ道と云
一、 山の頂をてへんと云、道あれはとうけと云
一、 敵城を攻取に平城は攻落すと云、山城は乗崩と云、出丸曲輪は乗取と云
一、 雨にかかるを降かかると云、雨にはしるをかわし走りと云
一、 沈むと云事をすむと云、かたむく事をきほうと云
一、 帆を揚るを持と云、下くるをすると云
一、 船詞の事凡上下ともに船に乗を乗船(のりふね)と云、湊を出るを出船(でふね)と云
一、 陣中より本国へ帰るを皈陣(きじん)と云、大将をは御馬を被入とも申なり
一、 軍忠の依て士卒に所知加恩を給るを勧賞(けんしょう)と云


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